
身体がラクでスムーズに動けるキッチンに
将来を見すえて……シニア世代のリフォーム 第2回

“ラクをすること”を考える
長年、リフォームの現場にたずさわり、「たとえ部分的なリフォームでも、まずは家全体を見回し、将来の暮らし方を思い描くこと」と、“足し算のリフォーム”の大切さを訴えるエス・オウ設計事務所の寺林成子さん。
今回はキッチンのリフォームについて、具体的なアドバイスをいただきました。キーワードは「ラクをすることを考える」だといいます。
椅子に座ってヒザが入るスペースを確保しておく
いったんキッチンに入って料理を始めたら、あとはほとんど立ち仕事。女性の場合、年齢が上がるほど股関節やヒザに痛みが出る人が多く、長時間の立ち仕事がきつくなるので、椅子に座ってヒザを入れる空間(ニースペース)があると、とてもラクになります。
まだ座って台所仕事をするほど年ではないというならば、必要になるまでニースペースにはキャスター付きのゴミ箱やワゴンを入れておくという手もあります。
キッチンカウンターやシンク下が丸見えなのが気になるならば、扉をつけておけばよいでしょう。キッチンと同じ床材をカウンター下まで貼っておき、必要になった時、扉をはずせばニースペースになるように準備しておけば安心です。
シンク上の吊り戸棚をもっと下まで
シンクや調理台のカウンターと、その上にある吊り戸棚の空間は広めにとってありますが、その分、吊り戸棚が高いため、上のほうの棚はデッドスペースになりがち。踏み台や手近な椅子などに乗ってのモノの出し入れは、転倒のリスクがあります。
「経験からいえば、吊り戸棚はもっと下まで下げても窮屈にはなりません。カウンターと吊り戸棚の間は、15cmタイルなら3枚分、45cmもあれば大丈夫」
吊り戸棚を下に伸ばすことで収納スペースが増えるうえ、手の届く範囲が広がります。使用頻度が高いものを出し入れしやすい位置に収納できれば、使い勝手のよさは飛躍的にアップするのです。
軽い力で引くだけで棚を引き下ろすことができる昇降式の吊り戸棚も便利ですが、両端に上げ下ろしするための金具がついているのをお忘れなく。その分収納力は下がります。
奥まで引き出せる浅い引き出しが便利
カウンターの下は引き出しが主流。この場合、重要なのは引き残しがないフルオープンであること。奥まできっちり引き出せないと、結局、奥はデッドスペースになってしまいます。
幅は45cmより60cmにしたほうがずっと便利。幅は約1.4倍ですが使い勝手のよさは倍以上です。
ただし、引き出しの深さや、棚の奥行きはあればあるほどいいわけではありません。大きな鍋や大皿を入れるところはそれなりの深さ・奥行きが必要ですが、お箸やふだん使いの茶碗・皿などを入れるスペースは、深すぎると、下に入れたものや奥のものはしまい込んだままになりがちです。一番上の引き出しは深さ10cmもあれば十分でしょう。
見落としがちなのは取っ手の形状。そで口や前開きの服の合わせ口などに引っかかると危険なので、シニアは引っかかりにくい形状のものや取っ手がないタイプを選んだほうが安全です。
床下収納を新たにつくるのは反対
収納はあればあるだけ埋まってしまうもの。一升瓶やタルも収納できる床下収納は魅力的に感じますが、「新たに作るのは反対です」と寺林さんは断固反対。
「腰をいためますよ。収納したって床下から持ち上げられますか? 床下収納にヘンな体勢で落っこちて起き上がれなかったという方もあるんですよ」。
確かに、いったん入れたら入れっぱなし、開かずの収納になる確率は高そうです。
食器洗い機を活用する
家族が少ないし、不自由も感じないからと食器洗浄機を敬遠する方もいますが、食器洗浄機は今や洗濯機より使用回数の多い家電。一度使ったら手放せなくなること請け合いです。
引き出し型の食器洗浄機の場合、45cm幅より60cm幅がおすすめ。洗い物が倍近く入る感じがするはず。子どもの独立などで家族が少なくても大きめなら鍋やフライパン、魚焼きグリルまで洗うことができます。
「潔癖性の方はいやかもしれないけど、大型なら換気扇のフィルターも入っちゃいますよ。放っておくからすごく汚くなるんです。油がくっついているだけですから、こまめに食器洗浄機に入れて洗っていまえば、むしろ常にきれいでラクですよ」。
手洗いより水も節約でき、水切りカゴも不要になります。
IH調理器にしたいなら50代までに
高齢になると、未経験の新しいシステムを使うのは億劫になるものです。80代の方が「ガスよりIH調理器のほうが安全だから」と導入したものの、慣れ親しんだガスレンジのようには使いこなせず、料理そのものをしなくなってしまったという例もあるそうです。
ガスレンジの代わりにIH調理器にしたいなら、早めにしておいたほうがよさそうです。
また、システムキッチンでは一般的にガスの下にオーブンレンジが組み込まれていますが、出し入れするたびかがむのは大変。使いやすいのは目線と同じ高さです。
取材にご協力いただいたのは
■エス・オウ設計事務所代表 寺林成子さん
一級建築士、リフォームマネージャー、インテリアプランナー。楽しい空間づくりをモットーに個人住宅、集合住宅等のリフォームを長年手がけている。住まいのリフォームコンクール 第11回 尚明賞ほか多数受賞。共著『50代リフォーム 素敵に自分流』 (経済調査会刊)好評発売中。
エス・オウ設計事務所
東京都中央区銀座1-9-8-401 TEL:03-3564-2629
http://www.aalab.com/soponte/
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