
車いす対応住宅の実例
前回は事故防止のための段差の解消について、貫井工務店・貫井一也さんにお話を伺いました。今回は引き続き車いすで生活する方がスムーズに動けるようにリフォームした住宅の実例をご紹介します。
段差を取り外し可能なスロープで解消したり、動線を変えることでトイレ介助を不要にするなど、生活の質がアップするリフォームを提案しています。
電動リフトで階段の苦労を解消
リフォームしたのは2世帯住宅の2階部分。
当初は「玄関が2階にあり、外階段で上り下りしているので、ホームエレベーターを取り付けたい」という相談だったといいます。
希望に合う一人乗り用のエレベーターは機械そのもののだけでメーカー価格250万円もするものでした。まわりに壁をつくって取り付けとなるとさらに費用がかかり、最終的には500万円を超えることになります。
「このお宅の場合はエレベーター1基で建物を1戸つくるのと同じようなコストがかかってしまうわけです。それならば、外階段にリフト(昇降機)をつけて、残った予算を居住空間のリフォームに回したほうがよいのではないかと提案しました」と貫井さん。
リフトのメーカー価格は100万円。まわりに壁や屋根をつける必要もありません。検討した結果、これまでの不便さはリフトで十分解消できるだろうということになりました。

庭から玄関へ上がる階段に取り付けたリフト。
玄関の段差はスロープで解消
さて、リフトを上がって家に入ろうとすると、次は玄関サッシの下わくが9cm突き出しています。外からの雨の侵入を和らげるためのものですが、この段差も車いすでは越えることができません。
これは前回ご紹介したように溝状に削り取り、その部分に新たな素材を埋め込む方式で解消しました。作業は2日間で済みました。
そして、玄関のたたきと上がりかまちの7cmの段差には、木製のスロープを設置。すべったり空回りしたりしにくい加工をしたクッションフロアを貼ってあります。
「スロープの横に取っ手をつけて、片手でカンタンに上げ下げできるようにしました。取り外せるからといって、がたついたり、隙間ができたりはしません。必要なときだけサッと用意できるので便利だと思います」(貫井さん)
ふだんは壁側に立てておけるので、邪魔になりません。このスロープは1日で出来上がりました。

玄関のたたきにスロープを置いた状態。

写真左はスロープを壁側に立たせた状態。写真左はスロープを持ち上げるための取っ手。
洗面所とトイレの間に新たな動線
屋内で特にリフォームの効果が高かったのは洗面所とトイレ。
現状は開き戸だったため、車いすに乗ってひとりでトイレを使うことは難しく、必ず介助が必要でした。
リフォームの際、トイレの開き戸はそのまま残し、隣接する洗面所から新たにトイレへの動線をつくることにしました。
まず、洗面所の開き戸を取り払ってロールスクリーンに変更し、さらに洗面所とトイレの間の壁を一部ぶちぬいて、ここもロールスクリーンに改修しました。このリフォームによって介助なしでトイレを使えるようになったのです。

便器はタンクレスでフタなし、背もたれ付きに交換し、両側の壁に手すりを設置した。

開き戸と壁の2か所をロールスクリーンに改修。
洗面台の足下に空間を
また、これまで洗面台に車いすを横付けする形で洗顔や手洗いをしていたので、洗面台のとびらを取り外し、足下の棚を切り取ることにしました。車いすに乗った状態でひざが入るようになり、これだけで毎日の不便が解消されます。
「足が入るだけでなく、少しはモノも置けたほうが便利なので、棚も少し残しておきました」と貫井さん。
これまでは水の飛び散りも激しかったそうですが、洗面台に体を近づけられることでそれも少なくなったと喜ばれました。

車いすが入る形に棚をカット。後日、施工主が自分で扉のかわりに簡単なカーテンを取り付けた。
車いすでの動線がラクな個室
リフォーム前は6畳のじゅうたん敷きだった個室は、隣接する和室との間の壁をぶちぬき、12畳の床暖房つきフローリングに変更しました。
廊下と部屋のもともとの段差は1cm。じゅうたんを剥がすことによって新たに生じる段差が1cm。計2cm低くなるため、新たにフローリングを貼っても約5mmの段差が発生する計算になったため、5mm分の薄い板をかますことでフラットに仕上げてあります。
また、これまでは開き戸を押して廊下から部屋に入ると、すぐ目の前に物入れの壁があり、車いすを直角に回転させて部屋に入らなくてはなりませんでした。
その不都合を解消するため、物入れを撤去。扉は引き戸に変更しました。引き戸は軽い力で開き、年を経てもゆがんで開け閉めしにくくなったりしないように上だけで吊っているものを選んであります。
開き戸の場合、戸の厚みによって出入りできる実際の幅(有効開口幅)が狭くなりますが、引き戸の場合は全開するもの(引き残しのないもの)を選ぶことによって有効開口幅が広くなるので、出入りもラクになります。

上だけで吊っている引き戸。物入れがなくなって、出入りが格段にラクになった。
動線を変えれば生活が変わる
「リフォームの際に重要なのは毎日どう動きながら生活しているか、その動線を考えること。通路などの幅は車いすだけの片側通行場所(廊下など)は90cm以上、出入り口の有効開口幅は80cm以上必要です」と貫井さん。
今回のリフォームを例にあげると、洗面所からトイレへの動線をつくることでトイレ介助が不要になりました。それによって、ひとりでの在宅も可能になり、介護者も外出の制限が大幅に小さくなりました。
リフォームが生活の質を上げる好例といえるでしょう。
リフォームには助成の利用を
家族の一人でも介護保険の認定を受けている場合には、自治体から住宅費改修の助成が受けられるので、積極的に利用しましょう。ただし、助成内容などは自治体によって異なります。事前の申請が必要なので、着工してから「しまった!」ということがないようご注意を。各自治体の窓口や助成金の申請対象になる工事の経験がある工務店に相談するとよいでしょう。
今回、取材にご協力いただいたのは
■一級建築士事務所 貫井工務店 貫井一也さん
工務店の所在地は東京・板橋ですが、仕事を請け負う範囲は広範囲。今回お話を伺った貫井一也さんのお父上で代表者の公一さんは40年前から、伊豆大島に第2営業所を構えているのだとか。1級建築士で大手ゼネコンに勤務していた経験を持つ一也さんは、新しい建材やメーカー商品についての情報をいち早くキャッチして、積極的に取り入れています。
東京都板橋区中台1-44-11 TEL:03-3934-0430
URL: http://www.nukui-k.com/
e-mail: nukui-k@zg8.so-net.ne.jp
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