
段差をなくして転倒防止
ほんの少しの段差でつまずいてケガをしたり、そのケガか元で車いす生活や寝たきり生活へとつながることがあります。段差解消のリフォームを考えます。
厚生労働省の人口動態統計調査によると、家庭内事故による死亡者は65歳から急増しています。さらに、東京消防庁の「家庭内事故の実態(平成17年中)」によると、救急車が出動した家庭内の救急事故のうち、49%は転倒によるもの。また、搬送された人の53%は60歳以上でした。
転倒の事例としてはカーペットやキャスター付きの椅子、階段などがあげられていますが、特に高齢者には数cmというわずかな段差が不慮の事故につながりるケースが多々あります。
転倒による大腿骨骨折をきっかけに寝たきりになってしまうことも多いので、予防のためにもリフォームの機会に段差はできる限り解消したほうがよいでしょう。
転倒予防は床と壁で
今回お話を伺ったのは東京・板橋区で工務店を営んでいる貫井一也さん。長いおつきあいのお宅からリフォームを依頼されることもたびたびだといいます。
「転倒を防ぐためのリフォームであれば、床と壁、両面からのリフォームをご提案しています」。床の段差を解消するだけでなく、壁に補助として手すりをつけることでとっさの時に対応しやすくなるというわけです。
手すりについては前回取り上げましたが、段差の改修をするにはどんなことを知っておけばよいのかお話を伺いました。
昔ながらの戸建てとマンションの違い
昔の日本の家屋は、廊下と和室の境めに2cmぐらいの段差をつけるものでした。「昔ながらの住宅の場合、建具は木でできていますから、段差を解消するには、のみとかんなで削り合わせればいいんです」と貫井さん。
けれど、今のマンションの多くは出っ張りを削ればヨシというわけにはいきません。たいていの場合、塗装の下は木ではなく化粧樹脂シート貼り(ラッピング素材)という建材でなので、出っ張った部分を削ると中がむきだしになり、美観が損なわれるからです。
そのため、さらに1cmほど深く削り取り、溝になった部分に木やステンレスなどの新たな素材を埋め込んで平らにするという方法が一般的です。
フラットにするかスロープにするか
「和室をフローリングにリフォームしたいが、現在の和室と廊下には段差がある」という場合、考え方としては2つの方法があります。
1.居室と廊下の境にスロープをつけて段差を解消する
2.廊下を1段上げて、居室と同じ高さに引き上げてフラットにする
1は段差解消のための工事は入り口部分のみ。費用も比較的低く抑えることができます。ただし、今後、また改修が必要になる可能性は残ります。2は段差解消のために廊下全体を工事するため、当然、費用も高くなります。ただし、今後、廊下の改修の心配は不要になります。
「入り口の段差を解消するだけなら幅90cmぐらいのほんの1か所の工事ですみます。工事の範囲がまったく違いますから、費用も異なります。生活動線がどうなっているか、費用の余裕があるかどうかなど、それぞれのご家庭で事情が異なるので一概には言えませんが、廊下だけがへこんでいて、ほかの部屋にも段差が生じている場合や、将来、車いすで生活するようになっても対応できる家にしておきたいという場合には、一気に廊下全体をリフォームするほうをオススメします」(貫井さん)

LDKを床暖房にしたために生じた廊下との段差をスロープで解消した例。(施工:貫井工務店)
スロープには溝をつけると上りやすい
廊下と居室、あるいは玄関などにスロープをつけるときは、見栄えを重視してつるつるしたものにしてしまうと滑りやすくなって危険です。また、車いすのタイヤが空回りして上れなくなる場合もあります。よく階段の段に溝がついていますが、それと同じようにスロープにも溝をつけるとすべりにくくなります。
また、傾斜地などでは玄関前から道路に出る階段を設置しているご家庭も多いでしょう。道路との距離が短いと、階段のかわりにスロープをつけようとしても勾配が急で危険な場合があります。そんなとき、スペースがあればいったん裏に逃げるような動線を作ることも考えられます。
スロープの利点
スロープをつけることの利点は、段差での転倒を防ぐということだけではありません。高齢者や車いすの方がひとりでも行動しやすくなるという利点があります。部屋に閉じこもりがちだった方がスロープひとつできたことによって一人で外出できるようになり、精神的に明るくなる例も少なくありません。玄関から道路へ、あるいは居室からベランダへ、ベランダから庭へ。その動線の有無は、生活の質を左右する大きな要因だといえるでしょう。

写真左はウッドデッキ設置前。高齢で車いすを使用するようになっため外に簡単に出られなくなったため、ウッドデッキを新設(写真右)。(施工:貫井工務店)

ウッドデッキから屋外に出ていけるようにスロープ(介護保険適応)をつけることで、戸外に出やすくなった。表面は細かい溝の入った「刷毛引き仕上げ」で、すべりにくくなっている。
リフォーム前に自治体に相談を
これらのリフォームは家族の中で65歳以上で介護保険の認定を受けている人がいる場合、自治体から改修費用の助成が受けられます。助成内容などは各自治体によって異なりますが、たいていの場合、工事着工前に申請が必要です。着工後では受け付けてもらえない場合がほとんどなので、必ずリフォームの前に自治体の窓口で相談しましょう。
次回は、車いす対応住宅のリフォームについて、今回に引き続き、貫井工務店施工の実例をご紹介します。
今回、取材にご協力いただいたのは
一級建築士事務所 貫井工務店 貫井一也さん
会社の代表は今回お話を伺った一也さんのお父上の貫井公一さん。一也さんご自身は1級建築士の資格をもち、大手ゼネコンに勤務していた経験もありますが、父上から仕込まれた大工仕事の腕が自慢です。「監督だけではなく、職人仕事もできるのが長所だと思っています。わざわざ職人さんを頼まなくても、ちょっとしたことなら自分で削ったり叩いたりできますから、すばやく対応できますし、お客様の費用も安くてすみます。新築でもリフォームでも、あとになって『やっぱりここに棚が欲しかった!』なんていう時も、ボクが対応できるので、お客さんも言いやすいみたいですよ」とおっしゃいます。
東京都板橋区中台1-44-11 TEL:03-3934-0430
URL: http://www.nukui-k.com/
e-mail: nukui-k@zg8.so-net.ne.jp
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