
寝たきりでも快適なトイレ「マインレット夢」
介護に役立つ最新機器に注目!〜おむつの中が快適なトイレになる
「お尻だって洗ってほしい」という宣伝文句と共に、
1980年、「温水洗浄便座」がこの世に登場したときはみんなびっくりしたものだ。
あれから四半世紀を過ぎて、今では快適なトイレが当たり前になった。
では、介護の排泄介助はどうか?
介護する人も、される人も、実はこの問題で悩んでいる。
加齢その他で体が不自由になると、
どんなに快適なトイレがあってもそこで用を足せなくなるからだ。
しかし時代は進化している。
寝たきりでも快適なトイレが開発されたのだ。

看護・介護のプロが注目
東京・有明の東京ビッグサイト(東京国際展示場)で、7月11日から3日間にわたって開催された「国際モダンホスピタルショウ2007」に行ってきた。「健康増進で築く豊かな医療と福祉—新しい地域ケアの姿をめざして」をメインテーマとして、約400社が参集し、最新技術を駆使した医療・看護・介護に役立つ機器や情報を紹介するイベントだった。会期中に77,600人が足を運んだという。

国際モダンホスピタルショウの看護ゾーン
このイベントでたくさんの看護や介護の専門職が足を止め、熱心に見入っている介護機器があった。排泄介助を必要とする人のために開発された自動排泄処理機「マインレット夢」。排便、排尿をセンサーが感知すると自動的に吸引し、さらに温水洗浄、温風乾燥まで行う、排泄介助の介護機器だ。

排泄介助は大きな関心事だ。介護を必要とする人々の切実な思いを知っている専門職にとって自動排泄処理機は見逃せない介護機器なのだ。
寝たきりでも快適なトイレが実現
便意や尿意を感じたら、トイレに行って用を足す。たったこれだけのことだが、トイレまで行くこと、トイレのドアの開閉、便器の操作、衣服の着脱、排便・排尿とその後始末など、実はいろいろな動作の組み合わせで成り立っている。体の自由が利かないと、こうした一つひとつの動作が困難だ。時間と手間のかかる排泄介助は、家庭でも施設でも大変だ。
大人の紙オムツ需要が右肩上がりという背景には、こうした事情がある。だが、紙オムツにも用途に応じてさまざまな種類があり、使いかたを間違えると逆効果だ。例えば、オムツ交換の回数を減らすために、テープ留めタイプの紙オムツの中にお尻どころか背中にまで届くほど尿とりパッドを何枚も重ねると、姿勢や座位を保てないうえに、寝返りもしづらいので褥瘡(床ずれ)になりかねない。便器やポータブルトレイには、臭気などの環境問題がつきまとう。そして、いずれの場合にも、見逃すことができないのは羞恥心だ。粗相をするのは恥ずかしいからと、飲まず食わずで栄養状態が悪化し、褥瘡になることもある。また、羞恥心ゆえに乱暴な言動になり、介護者を疲弊させる悪循環もある。介護する人もされる人も、心身ともにつらい。
瞬時に吸引、清潔を確保できる
「マインレット夢」は、肛門と尿道口をおおうようにプラスチックとシリコン樹脂を組み合わせた「オムツカップ」を装着し、排泄すると瞬時に便か尿かを自動感知してタンクに吸引する。後始末も自動的で、オムツカップ内で洗浄、乾燥まで行われるため、トイレットペーパー不要だ。吸引した汚物や汚水は、タンクに貯留。満杯になったらトイレに流せばOKだ。このタンクは丸洗いできるので、清潔を確保できる。そしてなによりもいいのは、汚物や汚水の臭気がまったく漏れないことだ。この優れものの「マインレット夢」を「介護支援ロボット」というらしい。だが、それよりも〝オムツの中の「快適なトイレ」〟という方が似つかわしいような気がする。
マインレット夢の実演動画(真ん中の再生ボタンを押してください。※音声が出ます)
介護する人、される人の負担を軽減するために
開発したのは、株式会社エヌウィック。介護をする人、される人、双方の負担を軽減させ、常に快適な介護環境を実現できるようにと、岩手大学工学部福祉システム工学科の大井川研究室(大井川宏明教授)の協力を得て、平成10年から研究・開発を始めた。臨床実験を重ねてようやく商品化できたという。昨年末には居宅用「マインレット夢」を、今年2月からは病院・施設用「マインレット」の販売を開始した。「介護にかかわる心身疲弊を改善したい」と、同社は普及に取り組んでいる。
居宅用の場合は「夜間のおむつ交換がまったくいらなくなったため、ゆっくりと休みことができるようになりました」と介護の担い手の声が圧倒的に多い。「臭気がないので屋内環境が改善された」と喜ぶ声もあるという。また、介護は決して高齢者だけのケアではない。ALSなどの難病の患者さん、病気や怪我で体の自由を失った若い人からも、この「快適なトイレ」を喜ぶ声が少なくないという。
イベント会場では、看護師、介護士など、身動きできない患者さんのケアを行っている専門職の関心が高かったという。入浴介助と並んでマンパワーを必要とするのが排泄介助だ。少ない人数でたくさんの人々をケアしならない夜間は、効率的に質の高いケアを実現するのか、切実な問題だからだ。

ベッドサイドにタンクを設置。ホースは体位交換などの邪魔にならない。明日の介護を担う学生たちも熱心に見学していた。

「オムツカップ」に専用カバーをつけた状態。カップ中央の黒い部分が排泄感知センサーだ。

ふたを開けて、中のタンクを持ちあげるのは、力の弱い女性でも大丈夫。
株式会社エヌウィック
http://www.minelet.com/
マインレット夢製品ページ
http://www.minelet.com/seihinntop.html
【取材を終えて】
介護経験はないが、介護された体験はある。うら若き20代半ばの頃、骨折のために手術を受け、足掛け3ヶ月入院したことがある。そのうち、2ヶ月はまったく身動きが取れなかった。お見舞いの花をもらっても、花瓶の水を取り替えることができない。歯磨きをしても、ベドサイドから遠くに置かれた水の入ったカップが取れない。
いちばん辛かったのはトイレ問題だ。職場の上司が見舞いにきてくれた。便意を催してむずむず。上司が病室を出るとすぐにナースコールを鳴らした。だが「どうしました〜」と問いかける看護師に答える「便器をお願いします」という私の声は、間違いなくドアの外の上司にも聞こえた。恥ずかしかった。これを含め、人生で4度の入院手術を経験したが、排泄介助で他人の手を借りるのは、羞恥心など心理的な負担をもたらした。
「マインレット夢」を見て、不自由体験と恥ずかしさを思い出した。おそらく高齢者介護だけでなく、骨折や難病などで排泄介助が必要なケースでも歓迎されるにちがいない。ただ、問題は価格だ。一台あたり、税込みで59万円。高いか安いか。微妙なところだ。介護ベッドのように介護保険適用になると、個人でも施設でも購入しやすいのではないか。ぜひ、そうなってほしいと強く思った。
取材した人:茂木登志子(もぎとしこ)
早稲田大学教育学部卒業。毎日新聞社出版局「毎日グラフ編集部」を経てフリーのライター&エディターに。活動テーマは「人と地球の健康」。トラベルジャーナル社「有機野菜が子どもを守る」、日本医療企画「介護保険の上手な選び方」「10兆円介護ビジネスの虚と実」、学研「食べて治すうつ症状」などの取材・執筆に参加。70代の母親と8歳の愛犬という高齢家族と暮らしている。
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