
Q:認知症の人は、どのような仕組みで、脳内の時間が逆行するのですか?
認知症の人は、どのような仕組みで、脳内の時間が逆行するのですか?最近のことはすぐ忘れるのに、昔のことは良く覚えているので、時間が逆に流れるという現象が、理解できません。
本当に「現在の記憶と引き換えに、過去の記憶が甦る…」というのであれば、当時の私的な出来事ばかりでなく、社会的な大事件や世相,流行なども一緒に思い出しても良さそうですが、そのようなケースは殆どないようです。
認知症の方の昔語りを良く聴きますと、殆どが同じ話の繰り返しであることに気づかされます。つまり、彼らの持つ“昔の記憶”は、あくまでも個人的な思い出話に限られていることが多く、「あれも思い出した!」「そういえば、あんな事件もあった!」と連鎖的に記憶が復活することは、極めて少ないのです。むしろ、最近の出来事と同様か、当然ながらそれ以上に、過去の細かい出来事も忘れている場合が多いのです。
つまりは私達と同じく「楽しかった・辛かった」など、個人として強く印象に残ったことを覚えているだけであって、決してSF映画か何かのように、脳のメカニズムに時間的な逆行が生じ、今を忘れて昔を思い出す…などという、奇妙な現象が生じているわけではありません。まして、私達よりも長い人生を送られている認知症高齢者には、思い出話が多いのは当然のことですし、最近のことを すぐに忘れることは、認知症が持つ、ごく自然の症状なのです。
失礼ながら、ご質問の内容は、よくある“認知症に対する誤解”の一つだと思います。
必要以上に認知症を異様な現象と考えて特別視することは、誤解に基づく不適切な対応に繋がる可能性もあり、大変に危険なことなのです。
例えば、よく耳にする誤解・曲解としては…
●認知症になると、精神が幼児に退行していく。
→だから、子供同然に扱えば良い。
●認知症でも厳しく躾ければ、ボケの進行を止められる(または、治る)。
→だから、時には体罰さえ与え、身をもって教え込まなければならない。
●認知症になると、自分が何ものであるかさえ、忘れてしまう。
→だから、自分の名前などの記憶は もちろん、人間らしさそのものを喪失する。
●認知症の原因は、怠けて頭を使わないことだ。
→だから、自業自得でボケたのに、周りに迷惑を与えている。
などなど…。
まるで、認知症の方を別世界の存在であるかのように捉えたり、その原因を本人の怠惰のせいだと決めつけたり…。このような悲しい誤解は、残念ながらまだまだ少なくないように思えます。
「子供 叱るな 来た道だもの 年寄り 嫌うな 往く道だもの」
という短句が思い出されます。
確かに、認知症の方の言動は周囲を困惑させることが多いのも事実ですが、それも加齢や病気によるものです。決して、ご本人が望んだことではありませんし、一番 不安で苦しい思いをしているのも、ご本人であることを、忘れないで下さい。
年齢を重ねることで白髪やシワが増えていくように、長い人生を一生懸命に生きてきた脳も、疲れたり傷んだりするのは当然のことです。
認知症のことを、「恥だ!」「迷惑だ!」「謎だ…」などと感情的に捉えることから始めるのではなく、あくまでも“やむを得ず生じてしまった疾病の一つ”であることを理解し、より正しい理解と対応に努めていきたいものです。
回答者/社会福祉主事 佐藤弘一郎
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