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特別養護老人ホーム 等々力

緑豊かな住宅街の地域密着型ホーム

特別養護老人ホーム等々力外観

東京都と神奈川県川崎市の間を流れる多摩川。
等々力という地名もこの川の両側にある。
今回の訪問先は、川崎市側のほうだ。
多摩川の近くに等々力緑地という、
公園、美術館、スポーツ施設の集合地域がある
特別老人ホーム等々力は
その緑地に連なる一角に誕生した。

水と緑と空が広がるのびやかな環境

 JR南武線と東急東横線が交差する武蔵小杉駅からバスに乗る。等々力アリーナ前で降りて、緑豊かな公園を背にして住宅街に歩を進める。特別老人ホーム 等々力は、ちょっと奥まった一角に静かなたたずまいを見せていた。

特別養護老人ホーム等々力屋上
緑豊かな林の向こうに高層ビル群が見える屋上。

特別養護老人ホーム等々力屋上
ウッドデッキは車椅子でも散歩が楽しめる。

 ここは2004(平成16)年4月1日に開設されたばかりの新しい施設だ。2008年4月には新たに通所施設(デイサービス)部門もオープンする予定で、隣接地に建設中の施設の完成も間近だ。このほかにも、川崎市住宅供給公社の高齢者向け優良賃貸住宅「フォレスト等々力」(65歳以上対象、家賃補助付き住宅)が完成しつつある。いずれも土地所有者は社会福祉法人春日会の前理事長、金子フミさんだ。先祖伝来の土地を社会貢献事業に役立てようと、高齢者対象の社会福祉事業を始めたという。

 高齢者とは「社会の荒波の中で努力してこられた人生の功労者」であるととらえ、「その人らしさを失うことなく“安全”“安心”“敬意”をもって」ホームに迎え、「あたたかな交流のある多彩な介護サービスを通じて、幸せで 生きがいに満ちた老後に貢献したい」というのが、このホームの理念だ。

安全に配慮した生活支援環境

各居室入り口のベンチと館内の様子を映すモニタ
各居室の入口にはベンチが設置されている(写真左)。各フロアの介護職員室ではモニターが館内の様子を映し出している(写真右)

 特別養護老人ホームとは、身体的な理由等により日常生活を送るのに常時介護を必要とし、介護保険の要介護認定において要介護1以上の認定を受けた高齢者をケアする施設。等々力の場合、ホームの定員は130名で、その内10名はショートステイ。需要が多く、常にキャンセル待ち状態だという。「入居者の年齢は病気で体が不自由になった60代の方から最高齢の108歳まで、親子ほどの年齢差があります。実際に親子入居している例やご夫婦で入居している例もあります」と、副施設長の岩壁信行さんが館内を案内しながら話してくれた。

個室の様子
個室は12帖くらいの広さで過ごしやすい。

4人部屋の様子
定員4名の部屋もある。

 1階の個室に入居している86歳の男性は、ベッドサイドに立って、足踏みをしながら、歩くリハビリに取り組んでいた。「入居した時は車椅子だったんだから」と、自力で立てるようになったことや、次の目標は歩けるようになることだと、うれしそうに話してくれた。

食事介助の様子
常勤の看護師も食事介助を行う。食事介助と入浴介助は介護職にとっても細心の注意を必要とするケアだ

ランチメニュー
取材当日のランチメニュー(普通食)

 ご本人の努力もさることながら、体力や身体機能が回復したのは、栄養バランスのよい食事、安全に配慮した入浴、そしてリハビリというホームで提供しているサービスの効果も忘れてはいけない。独居高齢者の生活困難は想像がつくだろうが、高齢の親子や夫婦の生活も、実は大変なのだ。身体が不自由で食事が準備できない、栄養がとれないと身体機能も低下する。この悪循環に陥ると、介護を必要とする高齢者だけの生活は立ち行かない。キャンセル待ちになるほどショートステイの需要が高いのも、共倒れにならないようにという在宅介護の予防線でもあるからだろう。

入浴介護
入浴後はドライヤーで髪を乾かしてもらう。

バスルーム
バスルームは個浴、一般浴のほかに機械浴もある。

本物を大切にして心を潤すイベント

 館内で印象に残ったのが、1階のエントランスを入ってすぐの広々とした空間だ。取材当日は平日だったので、テーブルと椅子が配され、ホテルのラウンジ風になっていた。「ここは機能訓練室ですが、いろいろなイベントの舞台でもあります」と岩壁さんがニコニコしながら話し始めた。なんと、月に一度、このスペースで居酒屋を開くというではないか。「よしずをはりめぐらし、タヌキを置いて、入居者の皆さんやそのご家族にも楽しんでもらっています。焼き鳥、ビール、ちゃんと居酒屋メニューも準備します。当日は、職員が作務衣を着て、居酒屋の店員を努めます」と岩壁さんがいう。

たぬきの置物
居酒屋のタヌキが「いらっしゃいませ」と入居者を待っている。

機能訓練室
広い機能訓練室はさまざまな用途に使われている。

 さまざまなイベントを開催し、入居者の心を潤したい。それが企画の根底にある。等々力緑地でお花見、流しソーメン、屋上で多摩川の花火大会見物、庭でビヤガーデン……。多種多様なイベントが行われ、その様子が入居者の笑顔と共にアルバムに記録されている。アルバムの頁をめくって行くと、どのイベントでも、誰もが本当に楽しそうで、笑顔が輝いている。

 「すぐ近くのグラウンドはJリーグの川崎フロンターレのホームです。法人サポーターになっていますので、入居者の皆さんも競技場でサッカーを観戦するのですが、試合の臨場感を全身で楽しんでいる感じが伝わってきます」という岩壁さんも楽しそうだ。

お誕生会とサポーター活動の様子
誕生会は毎月定例の大切な行事(写真左)。入居者もフロンターレ川崎を応援するサポーターだ(写真右)。

 岩壁さんは「イベントでは本物感を大切にしたい」という。なぜなら、「社会の荒波の中で奮励努力してきた人生の功労者」である高齢者は、本物を知っている。だから、子どもだましの遊びごっこではなく、できる限り本物を再現し、一人ひとりの入居者がその人生で体験した過去の記憶につながる楽しみを提供したいというのだ。今を楽しみながら、過去の幸福も思い出す。イベントは、心をほぐすケアサービスともいえるのかもしれない。

 ホームごとに掲げる理念がある。それを実現するための方法もさまざまだ。本物感にこだわったイベントで心を潤す等々力方式は、人生の機微に通じる深い味わいがあるのではないだろうか。

データブック

ホーム名:特別養護老人ホーム 等々力
運営主体:社会福祉法人春日会
住所:川崎市中原区宮内4-19-26
電話:044-753-2260
FAX:044-753-2261
E-mail:kasugakai@bz01.plala.or.jp
URL:なし
定員:130名(ショートステイ10名を含む)
構造規模:鉄筋コンクリート造 地上4階建 
敷地面積:3435.02平方メートル
延床面積:5299.40平方メートル
主要室名:居室・面接室・浴室(個浴/機械浴/一般浴)・トイレ・機能訓練室・調理室・医務室・介護職員室・事務室
利用料:入居者の介護度に応じて介護保険適用時の負担額が定められている。主な費用項目は介護福祉施設サービス費の1割/基本食事サービス費/居住費/教養ごらく費/預り金管理費/行事食代金。詳細については、直接施設までご連絡ください。
サービス内容:入所の方の身体状況に応じ、必要な介護(食事、入浴、排泄、機能訓練、健康管理、生活相談、その他)をホームの専門スタッフが行う。

●取材を終えて●

 介護の専門職として20年以上のキャリアを持つ岩壁さんは、マンパワーの充足と人材育成が、高齢者福祉の課題だという。介護ロボット開発の報道も見たり聞いたりするが、やはり「人の手」にはかなわない。

 安全確保を大切にする等々力では、各フロアの介護職員室に館内の様子を映し出すモニターを設置している。また、シルバー人材センターにも協力を仰ぎ、見守り役のヘルパーさんに来てもらっているという。70歳の女性ヘルパーさんは、「ずっとヘルパーとして働いていたのですが、年齢のせいか仕事が減ってしまいました。まだまだ元気なので、また、こうして働けるのがうれしいです」と笑顔で話してくれた。

 少子高齢化の時代は、若者が高齢者を支えるという単純な図式ではないようだ。年齢のくくりではなく、少しでも元気なものが、支援を必要とする人に手を貸す、という流れになるのではないだろうか。そんな気がした。

取材した人:茂木登志子(もぎとしこ)

茂木登志子早稲田大学教育学部卒業。毎日新聞社出版局「毎日グラフ編集部」を経てフリーのライター&エディターに。活動テーマは「人と地球の健康」。トラベルジャーナル社「有機野菜が子どもを守る」、日本医療企画「介護保険の上手な選び方」「10兆円介護ビジネスの虚と実」、学研「食べて治すうつ症状」などの取材・執筆に参加。70代の母親と8歳の愛犬という高齢家族と暮らしている。


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| 2008年03月01日 |
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