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特別養護老人ホーム 晴山苑(せいざんえん)(指定介護老人福祉施設)

高齢者の医療・福祉に取り組むパイオニア

どの世界にも先達と呼ばれる存在がある。
新しい年の第一弾として紹介するのは
まだ介護保険という制度もなかった40年前から
高齢者の医療・福祉に取り組んできたパイオニアだ。
有料老人ホームではなく、指定介護老人福祉施設なのだが、
日本の高齢者介護の牽引役を果たしているところがあるのだ。

高齢者の「安心」を備えた5階建てのホーム

 JR総武線の新検見川駅からタクシーで20分。今回の訪問先は千葉市花見川区にある晴山苑という特別養護老人ホームだ。運営しているのは、この地域を拠点に幅広く医療・福祉事業を展開する社会福祉法人晴山会(平山登志夫理事長)。2005(平成17)年の茨城県土浦市、2006(平成18)年の千葉県印旛村に続き、今春は東京北区に特養ホーム及び障害福祉サービス事業所をオープンするという。質の高い福祉サービスを提供する特養ホームや老人保健施設のパイオニアとして知られている晴山会が、最初に老人福祉に取り組んだのがここ、晴山苑なのだ。

 晴山苑が開設されたのは、1977(昭和52)年。住宅事情などさまざまな理由で、退院しても行き場のない高齢者や老親の介護に疲弊する家族の実態を、医師として目の当たりにしていた平山理事長が、高齢者もその家族も健やかな日々を過ごすために高齢者の介護施設が必須と考えたのだという。

特別養護老人ホーム晴山苑施設内

 2階から4階までがショートステイを含めた特別養護老人ホームで、5階が介護利用型軽費老人ホームのケアハウスになっている。また、訪問介護や訪問入浴介護の事業所も隣接している。まさに、高齢者やその家族に「安心」を提供する施設がそろっているのだ。

多床室から個室まで多様な生活環境

 取材当日、晴山苑の生活相談員(社会福祉士)斉藤直子さんの案内で、館内を回った。「安心」を備えたホームの様子を報告しよう。

売店

浴室

 1階で入居者たちに人気のコーナーといえば、ここ。売店と浴室だ。売店の営業は午前10時から正午までだが、あれこれ好みのお菓子を買うのを楽しみにしている常連さんもいるという(写真上)。入浴は週に2回。寝たきりでも入浴できる設備も整っている。順番を待つ際に退屈しないようにと、車椅子の目線に合わせてテレビが置かれていた(写真左)。ちなみに5階のケアハウスにも見晴らしのよい浴室「富士の湯」がある。これも好評だという(写真右)。

談話室と食堂を結ぶメインストリート

 エレベーターで上階へ。各階2フロアから成り、それぞれ名前にちなんだシンボルカラーがある。両端に位置する談話室と食堂を結ぶ長い廊下はメインストリートといった趣だ。入居者の平均年齢は85歳。車椅子利用者が多いのだが、「みなさん巧みに操作して自由に動いていますよ」と斉藤さんがいう。

談話室

 窓から花島公園が見える談話室。明るくて広い。入居者の家族も地元在住が大半なので、ここで一家団欒の時間を過ごす入居者と家族の姿が見られる。家庭のリビングのような感じだ。

居室(個室)

 隣り合わせの居室を見せてもらったが、個室はほぼ同じ広さで、洗面台とトイレが備えられていた。基本はベッドだが、入居者の生活状態に応じて畳に布団を敷く場合もあるという。居室に持ち込む荷物が少ないのは、近隣からの入居が多く、必要に応じて家族が届けてくれるからだという。

居室(多床室)

 今はどこも完全個室化されつつあるが、晴山苑には多床室もある。写真は4人用の居室だ。

 特別養護老人ホームは老人福祉法に基づいて設置されており、その設備概要は行政の方針に大きな影響を受ける。「建て替え当時は多床室から個室への過渡期でした」というのが、社会福祉法人晴山会本部参事の中山暉さんの説明だ。個室が当然の時代ではあるが、実際には「個室は寂しいし不安」という理由で、多床室を希望する入居者もいるという。入院経験があると、ちょっと分かる気がする。介護を必要とするときには、ナースコールだけではこころもとない。同室者がいると心強く感じるものだ。ほかにも、現実的な理由で多床室の需要があるという。2007年11月時点で入居待ちが456名という背景もあり、「1日でも早く入居したいから」と個室にこだわらないというケースもあるそうだ。

 医療でも福祉でも、施設の設備は法制度改正で翻弄されることが多い。高齢者にとって、本当に心地よい部屋とはどういうものなのか? まだまだ考える余地がありそうだ。

介護サービスを支える「身体と精神の解放」

 館内を回りながら、印象に残ったのが穏やかな明るさだった。入居者の皆さんはもとより、働いている職員たちの立ち居振る舞いや表情が柔和なのだ。

職員の笑顔

 常勤の看護師は3名。夜間は呼べばすぐに駆けつけるオンコール体制をとっている。職員の笑顔も印象的だ。食事の介護も真摯な表情のなかに、やさしい微笑が見える。

 「必要とされるサービス」を「必要とされる時に」「必要とされる場所」で提供する。「利用者の満足感・安心感・信頼感の得られる介護サービス」を一体化する。これが晴山苑職員一同の理念だ。具体的な実践課題として取り組んでいるのが、「身体と精神の解放」だという。

 これは、いったいどういう意味だろうか? 斉藤さんが答えてくれた。「当たり前ですが、事故や危険の防止や不穏行動への対応として、身体拘束や抑制を行う介護は絶対にしません。同様に、心も押さえつけるようなことはしたくない、ということです」。中山参事が「例えば、他のフロアに行ってみたい、外に出てみたいという気持ちを抱いても、各フロアをロックして移動の自由をなくしていたら、どうでしょうか。ロックすることで、自由に動きたいという気持ちまで封じ込めてしまうことになります」と言葉を添えた。介護保険制度の施行にあたり、国は介護保険施設に「身体的拘束等の原則禁止」を義務付けた。そこに心の自由まで加えるというのは、全国レベルでも先進的な取り組みだ。

 社会福祉法人晴山会の常務理事で法人本部長を務める郡香目平さんは「晴山苑は設立当初から、高齢者福祉の向上を願ってきました。私たちの取り組みで介護知識や技術が向上したら、それを広く社会に還元して全国に伝えたい。そういう思いで職員が一丸となっています」という。

 質の高い福祉サービスを提供する介護のパイオニアは、常に一歩先を走っている。だから「安心」と「信頼」を維持できるのだろう。

データブック

ホーム名:特別養護老人ホーム晴山苑
事業主:社会福祉法人晴山会
運営主:社会福祉法人晴山会
住所:千葉市花見川区花島町149-1
電話:043-250-7351
FAX:043-258-8900
E-mail:なし
ホームページ:http://www.seizankai.jp/fukushi/tokuyo/index.html
定員:120床(ショートステイを含む)
建築構造:鉄筋コンクリート5階建て
施設概要:居室・リビングダイニング・静養室・談話室・医務室・売店・浴室(一般浴/リフト浴/車椅子/特浴)・トイレ・厨房・事務室・地域交流スペース「はなしま」
利用料:入居者の介護度に応じて介護保険適用時の負担額が定められている。
サービス内容:施設介護サービス計画に基づいて、入浴、排泄、食事等の介護その他の日常生活のお世話、機能訓練、健康管理、相談、療養上の支援を行っている。

●取材を終えて●

 高齢者介護が社会的な注目を集めるきっかけとなった一つが、有吉佐和子の小説「恍惚の人」だったと記憶している。私自身は祖父母が早く他界したため介護体験がない。そのせいもあってか文学少女時代にこのベストセラーを読んで驚愕し、「生きるって大変だなぁ」と思ったものだ。

 晴山苑の生みの親である平山理事長が介護施設の社会的必要性を実感したのは、ちょうどこの小説の執筆時期と同じ頃らしい。今では死語になってしまったが、その当時は老人ホームよりも「養老院」という言葉が一般的だったような気がする。そして、多くの場合、交通不便なところに建てられていた。

 社会全体が、介護が必要な人を特別視していたのだろう。年を重ねれば誰もが高齢者になるという当たり前のことに気がつかなかったのだ。ところが、そんな時代に、平山理事長は晴山苑を住宅街の一角に設けた。高齢者と家族が「スープがさめない距離」で暮らせるように、という思いからだという。そこには、高齢者も地域社会の一員であり、離れて暮らしていても大切な家族である、という強い信念が感じられる。

 誰も考えていなかったこと、新しいことを始めるというのがパイオニアだ。今では当たり前のようになっているコミュニティケアという考え方も高齢者福祉のあり方も、パイオニアが新しい道を切り開きながら社会に浸透させたものなのだ。晴山苑でその重みを感じた。そして、早世した女流作家がもしも今なお存命だったら、21世紀の高齢者とその家族の生活をどのように描くのだろうかと思いながら帰路についたのだった。

取材した人:茂木登志子(もぎとしこ)

茂木登志子早稲田大学教育学部卒業。毎日新聞社出版局「毎日グラフ編集部」を経てフリーのライター&エディターに。活動テーマは「人と地球の健康」。トラベルジャーナル社「有機野菜が子どもを守る」、日本医療企画「介護保険の上手な選び方」「10兆円介護ビジネスの虚と実」、学研「食べて治すうつ症状」などの取材・執筆に参加。70代の母親と8歳の愛犬という高齢家族と暮らしている。


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| 2008年01月09日 |
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